釣竿の基本構造はいまだに竹であるらしい
日本複合材料学会誌に掲載された記事で面白い物を見つけたので、なるほど!と思ったことをまとめました。その記事の作者は当時のダイワ精工(株)フィッシング生産本部技術開発グループの黒川智弘という方です。手っ取り早く原文が読みたい方はこちらに飛んでください。『こんなところに複合材料ー釣竿における複合材料ー』
竹と炭素繊維強化樹脂の素材の構造
植物には水分や養分を運搬する管からなる維管束という部分があるのですが竹の場合はその構造が特殊で、竹の柔軟な木質部の中にまっすぐに配列されています。そしてその繊維が、細いのにまっすぐで背が高いという非常に折れやすいものが曲がって戻る力を受け持ちます。
これはまさにエポキシ樹脂の中に炭素繊維の長繊維をまっすぐに引きそろえて配置されているというカーボンロッドの素材である炭素繊維強化樹脂そのものです。ロッドのエポキシ樹脂が木質部にあたり、カーボン繊維が維管束にあたるということです。
言われてみれば簡単な話なのですが、これを初めて読んだときにはなるほどっと感動すら覚えました。
釣竿と竹が折れるメカニズム
竹が折れる原因はつぶれです、細い竹を割ってみればわかりますが折れた部分が潰れるだけでどんなにグニグニやってもなかなか破断させることはできません。つまり繊維が力に耐えかねて切れたのではなくパイプ状の物が潰れることによって折れたのです。この潰れに耐える力を座屈強度といいます。
釣竿の場合ここまでしつこくはありませんが、釣竿が折れる原因も同様に潰れです。釣竿は薄く作られているので折れる原因は炭素繊維の強度ではなく、座屈強度に依存します。
釣竿の繊維方向と竹の節
釣竿の材料は竿の方向に対して90度方向の炭素繊維が潰れに対する強度を受け持ち、0度方向の繊維が復元力、いわゆる弾性を受け持っています。ずいぶん前に進化して45度繊維というものも出てきていますが、基本は弾性と潰れに対する強度を持つ材料でできた筒なのです。
ちなみにこの45度繊維という物が初めて採用されたのはダイワの継ぎ部です。細かい年代は分かりませんが、何十年も前のカーボンロッドができた初期ごろにはあったみたいです。シマノの竿は品質が高いと評判ですが、品質の話はおいといてカーボンロッドを進化させてきたのは常にダイワです。
対して竹は90度の繊維の代わりに節が配置されそれが潰れに対する強度を受け持っています。ちなみにこの節は等間隔に配置されているのではなくバラバラの感覚で配置されています。これの方が折れにくいらしいのです。自然の緻密さを感じます。
材料だけではなく形も100年以上の伝統から逸脱していない
宇宙分野よりも先に採用されることもあるくらい進歩を極めた釣竿の材料ですが、形の本質も変わっていません。釣竿とは要するに「テーパーのついた中空の棒」です。北海道大学の研究によるとこの細長いテーパー付きの中空の棒を使用するといった基本的設計概念に変化がないと述べています。
近年,釣竿はカーボンやガラス繊維など複合材料の使用によって,主にその材料面において目覚ましい発展を遂げています。しかし,今一度この釣竿の長い歴史に目を向けてみると,細長いテーパー付き中空棒を使用するといった基本的設計概念に変化がないことに気付かされます。この事実は,竹竿と現代の釣竿が共通して有する「テーパー(先細り)構造」と「中空構造」の中に釣竿との構造的親和性が秘められていることを私たちに示唆させます。
なぜ日本人は竹で釣竿をつくるのか?北海道大学
以上、竹と釣竿は構造が同じという話でしたが、釣竿の深い理解につながる興味深い話ではないでしょうか。